日本糖尿病学会は,昨年9月末に『糖尿病診療ガイドライン2019』(=【GL-2019】)を発行しました. 【GL-2019】では,従来の食品交換表で設定しているカロリーは明らかに過少見積だと実測データで証明されたので訂正されました.しかし,カロリー制限食という枠組みは一切不変であり,糖質制限食についても『現時点では勧められない』(【GL-2019】39頁)と,いささかも譲っていません.
【GL-2019】が発表されてから,そろそろ1年近く経過しています.本来であれば,今年の5月に第63回日本糖尿病学会が開催され,そこで新しい動きでもあるのかが注目されるところでした.しかし この学会は10月のWEB開催に延期されました.
ただし この間 まったく動きがなかったわけではありません.
2020年5月8日「糖尿病治療ガイド2020-2021」が発行されました.
2020年5月27日には「糖尿病治療の手びき 2020 (改訂第58版)」が発行されています.
どちらの資料も『糖尿病診療ガイドライン2019』に合わせて内容を改訂したと謳っています.
また6月には,長年 日本糖尿病学会の『顔』であった門脇孝理事長から,植木浩二郎 新理事長に交替しました.
さらに つい先日 学会の中期計画が発表されました.
以上が【GL-2019】以降 本日までの学会の動きです.
本シリーズは,これらの最近の動きをまとめて締めくくりたいと思います.
糖尿病治療ガイド
今年の5月に『糖尿病治療ガイド 2020-2021』(以下『治療ガイド』)が発行されています.
『治療ガイド』は『糖尿病診療ガイドライン』とは異なり,主として 糖尿病専門医ではない一般内科医向けのガイドです.糖尿病をほとんど診断・治療したことがない医師でも,一応このガイドにしたがって診察・治療すれば 大きなミスはしないし,このガイドで手に負えなくなったら,専門医に紹介してくれればいいという位置づけです.
タイトルからわかるように,隔年で改訂されますが,改訂される年には 書店に並ぶ前にまず学会会場で販売開始されます.
なお,この冊子には,学会から『正誤表』が出されていますので注意.
どこが変わったのか
あまり注目されていないようなのですが,個人的意見では この2020年版は かなりの変更があったと考えています.しかも 見方によっては『糖尿病診療ガイドライン 2019』よりも 一歩踏み出したような表現さえ見られます.
以下 詳しくみていきましょう
なお,比較のために 『2013年提言』が発表された直後の『糖尿病治療ガイド 2014-2015』(2014年5月発行)を,参照しています.
比較精査するのは,これら2つの『治療ガイド』の第4章[食事療法]です.
以下 『糖尿病治療ガイド 2014-2015』を【G-2014】,『糖尿病治療ガイド 2020-2021』を【G-2020】と略記します.
初診時の食事指導のポイント
どちらのガイドでも,第4章の冒頭に『初診時の食事指導のポイント』を掲載しています.糖尿病と思われる初診の患者について,患者の特性を把握しておきなさいという案内です.
両者を比較すると,一見よく似ているのですが,
灰色の欄は,両者で差がなかった箇所です.
脂質の摂取では,【G-2014】では 無条件に『脂肪を控えろ』と書いてあります.つまり字面だけを極端に解釈すれば『脂肪は一切食べるな』とも読めてしまいます. しかし【G-2020】では『動物性の』脂質は控えろと言っているだけです. 「脂質は無制限」とまで書いてあるわけではありませんが,少なくとも【G-2020】は【G-2014】のように脂肪を『敵視』しているわけではなさそうです. また【G-2020】では1項目追加して,『間食に甘いものを摂らないように』であって,これも間食すべてを否定しているわけではありません.
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コメント
>【G-2020】では『動物性の』脂質は控えろと言っているだけです
こうすれば糖尿病患者を増やせます。
糖質制限をして糖尿病患者が減る損害を少しは埋め合わせできるでしょう。
日本脂質栄養学会のガイドラインでは、
動物性脂肪は毒性がないので過剰摂取して太らない限り安全、となっています。
その実例として久山町研究をあげています。
久山町では、植物油を全国平均の2倍摂取する栄養指導を九州大学が行った結果、糖尿病の発症率が全国平均の2倍になっています。