石頭

今年も3月2日に 第39回管理栄養士国家試験が行われました. その問題と正答とが,厚労省のHPで公開されています.

所定の教育環境を有する大学等(管理栄養士養成施設)を卒業した人が受験資格を有し,この国家試験に合格すれば晴れて管理栄養士と名乗れることになります.
ぞるばは 学会が推奨する糖尿病の食事療法に疑問を抱いた頃から,この国家試験の出題内容をWatchしてきました. 今も問題が公表されると『模擬受験』しております. 昔は余裕で9割以上正答できたのですが,最近の問題はやたらカタカナ語が多くなって 正答率は下がっております.

しかし,毎年この国家試験問題に取り組むのは,糖尿病の食事療法に関する問題が必ず出題されるからです.
しかも 昔は 200問中,第124問(又は第125問)が,必ず『食品交換表の知識』を問う問題と決まっていました. こんな具合です.

正解はもちろん,低カロリー・低脂質の(1)です. 驚くべきことに,この問題では,2型糖尿病の患者というだけで,性別・体重だけを示すだけで「正しい食事療法」を答えよと要求しています.つまり,患者の血糖値やHbA1cなどには全く無関係に「一律に」食事療法が決定できるというのです.「糖尿病の食事療法は ただ1つしかない」と言う考えだったのです.

しかし,この年あたりを最後に こういう問題は出題されなくなりました. それは管理栄養士の出題基準が この後 大幅に改訂されたからです.

実は 糖尿病食事療法に限らず,管理栄養士の業務のありかたについて,特に栄養指導を行うにあたって『教科書にはこう書いてあります』と,患者の個別背景・病態をみずに,ただ機械的に原則を適用してしまう管理栄養士が 当時は(今も?)見受けられたからです.

そこで 「平成30年度 管理栄養士国家試験 出題基準改定検討会」では,単に栄養管理の知識だけを問うのではなくて,「考える力」を試す,すなわち応用問題の出題を強化する方針が打ち出されました.

この方針の基に,それ以降,単に教科書知識だけでは 解けない問題が数多く出されるようになりました.その一例がこれです.

フレイル状態で,寝たきり一歩手前という高齢の母親が 最近食が細ってきたので,心配した娘さんが 管理栄養士に相談したという問題です.

「低脂質がヘルシー」「バターは飽和脂肪酸が多いので悪」

という教科書知識を杓子定規に適用すると,必ず 間違える問題が出されるようになったのです.ほとんどの受験生は,(2)~(4)を選んだでしょう. しかし正解は(1)だったのです.受験生が間違えるのも無理はありません. 管理栄養士受験を指導する専門学校でさえ,試験直後に発表した『模範解答』でも間違えていましたから.この記事にも書きましたように;

『ただ教科書通り・マニュアル通りにやっていれば それでいい』という管理栄養士を排除しようという,厚労省の強い意思が感じられますね.したがって,管理栄養士国家試験において,「食品交換表」が出題されることはなくなりました.最近 管理栄養士になった若い人は,「糖尿病なら一律に食品交換表」などとは思いもしないでしょう.

しかし,日本糖尿病学会では,『糖尿病診療ガイドライン』では「食事療法の個別化が必須」と書きながら,「糖尿病治療ガイド」では依然として「食品交換表」を使うことを薦める(「糖尿病治療ガイド 2024」p.40)という『二枚舌』状態です.

なぜ,こんなことが続いているのでしょうか? 今年 岡山で開催された 『第68回 日本糖尿病学会 年次学術集会』で,食事療法に関するシンポジウムを聴いたのですが;

糖質制限食の実績を報告した 北里大学 白井先生の講演後の質疑応答で,『糖質胃制限食は危険だ』という質問をした人がいました. その時,私の隣に座っていた男性(もちろん医師でしょう)が,音がしないように拍手を送っていました. 「全員一律に食品交換表がベストなのだ」と カタく信じている石,いや医師はまだまだ多いのでしょうね.

(C) Microsoft Designer

コメント

  1. highbloodglucose より:

    わたしの母は80歳代前半、BMI 20弱です。今のところはフレイルの徴候はありません。
    現在の投薬内容ではHbA1c 7.0%を超えるようになってきました。
    食が細くなってきた父と違い、母はまだ食欲があります。ただ、1回に食べられる量は多くないため、すぐにお腹が空いて間食をしたいという欲求が強いようです。そして、間食(おやつ)と言えばやっぱり高糖質なものが定番なので、そこで血糖値を上げてしまうようです。
    母が診察時に「どうしてもお腹が空いて間食をしてしまう」とクリニックの糖尿病専門医に訴えたので、付き添いをしているわたしが横から「間食するならチーズやナッツを食べてほしいんですけどねぇ…」と口を挟みました。すると、医師は「うーん、チーズやナッツは飽和脂肪酸が多いからなぁ…」といい顔をしませんでした。

    やせていて、1食のカロリーが不足しがちで、だけど高糖質な間食を摂れば血糖値が上がってしまう後期高齢者なのですが、チーズやナッツでカロリーを補うのはNGらしいです。
    フレイル状態で寝たきり一歩手前になるまでは、やっぱり飽和脂肪酸は摂ってはいけない悪者扱いのようです。

    ちなみに、かかりつけ糖尿病専門医はおそらくまだ30歳代後半なので、古い知識の高齢医師ではないはず。
    なんですけどね〜

    • しらねのぞるば より:

      >飽和脂肪酸が多いから

      『いい食べ物/悪い食べ物』症候群ですね.
      その先生は 山で遭難して食べ物がチーズしかなくなっても,「これは飽和脂肪酸だからなぁ」と悩むのでしょう.