Standard Chow
Standard Chowというものをご存じでしょうか? 日本語では「標準餌」と訳されます. 新薬開発実験などで使われる実験動物=マウス・ラットなどに与える飼育用の餌のことです.

実験用のマウスが,食欲不振や消化不良で健康を害したら 医学実験の意味がありませんので,マウスの健康を保つために,注意深く調製された餌です. 栄養素バランスやビタミン・ミネラル・微量元素に至るまで過不足のない,いわば最近流行の「完全栄養食」です.

ケージで飼われているマウスには,給餌器により 毎日 定時に 一定量の標準餌が与えられます.マウスからすれば,「何だ また同じメシかよ.たまには変わったもの食わせろ!」と思っているでしょうね.
そこでです,毎日毎食に こういう食事を出されたらどう思いますか.

低脂質・低蛋白で 食物繊維たっぷりのヘルシー食です. 「これだけを食べていれば あなたはいつまでも健康でいられます」って言われてもねぇ.
『日本人の食事摂取基準 2025年版』に こういうデータが紹介されています.

3人の成人男性の食事を 16日間調べたところ,日毎の摂取カロリー(エネルギー)は,こんなに変動していました. 特に変動の激しかった人だけを選んだのではありません. 普通の人が普通に食事をしていても,だいたいこれくらいは変動しているのです. 図を見ると,大食いらしい人(△)は,いつも摂取カロリーが多く,小食気味の人(■)は 全般にカロリーが控えめです. しかし 8日目,16日目では,小食気味の人(■)のカロリーがもっとも多く,普段 大食いの人(△)も,なぜかこの日は食が進まなかったようです.
以上は 日毎の摂取カロリー変動をみたものですが,栄養素別にみたものはこうなります.

蛋白質,ビタミンC,ビタミンDの日間変動データです. カロリーの変動などがおとなしく見えるほど激しく変動しています.ビタミンC,Dは 日によって 一桁以上の変動がありますね.
つまり,ケージの中で飼われているマウスとは異なり,われわれ人間の普段の食事は 質・量ともに 毎回 これくらい大きく変動しているのです. だからこそ 食の楽しみも感じられます.食事は 常に 炭水化物=60%,脂質=25%,蛋白質=15%とピタリと固定されてしまったら,料理のバリエーションなどなくなってしまいます. ざる蕎麦は『食べてはいけない』ものになってしまいますね.

これらを見ると『毎回の食事ごとに きちんと栄養バランスを考えて』 これを厳守したら,マウスのように 毎日 同じ 完全栄養の標準餌を食べるしかありません.
食品交換表の推奨は,実はマウスのような食生活をしろと言っているのに等しいですね.
コメント
多分、このブログ記事を医師や管理栄養士が読むと、こう反論するんじゃないかな。
「毎日毎食、病院食のような食事を必ずしろとは指導していない。また、病院食も毎食メニューを変えている。写真のような食事が毎食続くわけではない。
食事交換表に沿った食事が基本だが、たまにはざるそばやラーメンを食べてもいいし、間食にまんじゅうやアイスを食べてもいい。禁止はしていない。
それらを食べても、週や月単位のトータルでカロリーが守られていればいいし、栄養バランスが取れていればそれでいい」
病院食の是非はさておき、何も考えなくても毎食食事が出てくるのは楽ですねぇ。毎日毎食自分で食事を用意するのは面倒くさいです。ほんと、メイ○ランスですませたろか?と思うくらいw
でも、メイ○ランスもベー○ブレッドも超加工食品ですよね? いくら完全栄養食であっても、これらを毎食だと医師や栄養士から怒られそうです。新鮮な食材を使った食事を摂りなさい!と。
実験動物のネズミちゃんやペットの犬猫は、完全栄養食の専用フードがベストだと言われるのにね。愛犬に手作り食を与えていたら、かかりつけ獣医師にそれとなく反対されましたから。(さすがにグリーントライプまでは手を出さなかったけれど、それなりに栄養計算して作っていたつもりだったんだけどなぁ)
>ケージで飼われているマウスには,給餌器により 毎日 定時に 一定量の標準餌が与えられます
食事に関する研究で使われるマウスは、そのように管理されているんでしょうね。
一般的なマウスは、ケージのフタ部分にあるエサ入れにペレットをガサガサッと入れて自由摂食で飼育されていると思います。どれだけの量を食べているのか、気にしたことなかったな・・・
ふと思いましたが、生まれてからずっと狭いケージで飼育されているマウスって、筋肉の発達はどうなってるんでしょうね? ヒトなら運動量が少なければ筋肉量が少なく体脂肪がつきやすい体型になりそうですが、実験動物のマウスは野生マウスと比べて体組成はどうなってるんでしょうね。
ロータロッド試験やぶらさがり試験のデータ取りを手伝ったことあるけど、野生マウスならもっといい成績を出すのでしょうか???
>こう反論
公式回答ではそうでしょうね. ただ 私が受けた生涯最初で最後の栄養指導では「三食 きちんとバランスの取れたものを食べなさい」でした.で,その後に続けて「ただし 肉と揚げ物は毒です」でしたから,とにかく 現場では 無知な患者でもわかるようにと,説明を極端に単純化しているのでしょう.
>病院食も毎食メニューを変えている
今の病院食は知らないのですが,私が外科に入院した時には 糖尿病患者ではないのに,毎食 ほとんど見た目が同じの 極く薄味の病院食で 食欲がゲッソリと失せました.
>食事に関する研究で使われるマウスは
毎回,摂食量と体重とを測定しているようです.