第64回日本糖尿病学会の感想[12] 薬の選択-1

保険診療報酬データベース

患者が病院にかかり 会計を済ませる時,保険診療の場合であれば,支払うのは総診療費[★]の3割だけです(一部の高齢者では2割または1割負担). では残りの7割は誰が払うのでしょうか? もちろん,患者が加入していたそれぞれの健康保険組合です.サラリーマンの方なら健保組合又は政府管掌健保組合,公務員なら共済組合,自営業など被雇用者でない人は 各自治体の運営する国民健康保険が残りの7割を病院に支払います.

したがって,病院では総診療費とその7割の金額を書いた請求書を各健保組合に送ります. これが『診療報酬請求書』ですが.実際には 診療費用の内訳を詳細に書いた『診療報酬明細書』も必要です.後者は通常『レセプト』と呼ばれています.患者に渡した診療報酬領収書が語源のようです.領収書は英語でレシートですが,レセプトはドイツ語です.カルテをドイツ語で書いていた名残なのでしょうね.

[★]『総診療費』に薬の値段は含まれません.ネットなどでは,『医師はできるだけ高価な薬を患者に出して儲けようとする』などという【陰謀論】を目にしますが,医師が患者に薬を処方しても,医師が手にするのは処方箋を発行することによる処方箋料だけです.1万円の薬でも 100円の薬でも 処方箋料は同じで 薬の値段に関係ありません.

厚労省は,すべての健保組合から支払われた保険診療報酬の全データを集めています.そしてその概要は 厚労省のNDBオープンデータで公開されていて,誰でもアクセスできます.最新版は2018年度のデータです.

私もかつてこのシリーズ記事で,NDBデータを分析して 都道府県によっては糖尿病薬の使い方にはかなり大きな格差があることに気づき,その格差の理由を考えてみましたが,ついに結論は得られませんでした.

学会シンポジウムでも

今回の第64回日本糖尿病学会でも,このNDBデータを解析した報告がありました.

2014年度下半期から2017年度までに,新規に外来で糖尿病薬を【単剤で】処方された 成人2型糖尿病患者のデータをまとめたものです.
単剤処方のみと限定した理由は,重複を避けるためです.またインスリンや配合剤の例も除外しています.

結果を見ると,都道府県によって,[よく処方される薬]/[あまり処方されない薬] には大きな差がありました. 差が激しかったののはメトホルミンとDPP-4阻害薬で,特にメトホルミンは沖縄で飛びぬけて処方率が高く,徳島では最低でした.これは私の集計結果とも一致しています.

また医療施設別にみると,新規に処方する場合に 単剤処方ではメトホルミンの処方率がゼロであった医療機関が結構存在していました.併用処方では,第2・第3の薬剤として使っているのかもしれませんが,それにしても 『どんな患者が来ても 第一薬として絶対にメトホルミンを使わない』というのは 合理的な理由がみあたりません.

たしかに医師が患者に どういう糖尿病薬を処方するかは,完全に医師の判断に任されています. しかしそれは 患者の病態に応じた判断のはずですから,地域や施設によってまるで異なるというのは説明がつきません.

[13]に続く

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