以前の記事『午前中 なぜかじわじわと上がる血糖値』で,血糖値が上がりつつあるのに,膵臓がさぼっていてなかなかインスリンを出してくれない,という現象をとりあげましたが;
血糖値はインスリンの働きだけでは決まらない
食物中の糖質が小腸で吸収されて血糖値が上がりだすと,それを感知して 膵臓β細胞からインスリンが分泌され,インスリン作用により各組織が糖を取り込む. この時インスリンに対して速度・効率共に高ければ,『インスリン感受性が高い』,逆に応答が悪ければ『インスリン抵抗性がある』….と解説されます.しかし;
寄り集まっているのには理由がある
食物からの糖質吸収は,小腸上部でまず始まります. したがって真っ先に血糖値が上がりだすのは,小腸の静脈です.この近くに 膵臓や肝臓の門脈があるのは偶然ではないでしょう. 血糖値の変化をすぐに感知するためです.
つまり,インスリン分泌が早いか遅いか,量が少ないか多いかなどという以前の段階として,上がり始めた血糖値に対して,膵臓・肝臓・筋肉が どれくらい十分に応答できるか,という問題があります. 血糖値がわずかに高くなっただけで,すぐに膵臓が適量のインスリン分泌を開始するのか,それともかなりの高血糖になるまでインスリン分泌が始まらないのか. これが Glucose Effectiveness,あるいは『グルコース感受性』です.つまりいくら膵臓の分泌能が強力であっても,そもそも膵臓がのんびり屋さん・怠け者であっては 間に合わないわけです.これは肝臓でも同じです. 血糖値が上がり始めたら,糖新生・グリコーゲン分解に 素早くブレーキをかけねばなりません.
ほとんど手つかず
つまり,実はインスリンだけでは糖尿病は語れないのだ,ということでもあります.
耐糖能 = グルコース感受性(Glucose Effectiveness) × インスリン感受性
なのですから.
しかし,この グルコース感受性 は 現時点では まったく未知の分野です.インスリン分泌能やインスリン抵抗性のようにクランプ試験のみで測定できるというものではないからです.耐糖能を大きく左右する重要な因子であるのに,全く省みられていないと嘆く論文があるほどです.
The forgotten role of glucose effectiveness in the regulation of glucose tolerance
耐糖能調節における,Glucose Efectivenessの忘れ去られた役割
未知の原野であるだけに 今後この分野から新規な発展(例えば グルコース感受性改善薬の出現)を期待できるのではないでしょうか.
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