PECO ペコちゃん?

「この薬は○○病に効果がある」と言われても

それは,どうやって調べたのか,という話です.
どの国でも,新しい薬が実際に病院で使われるようになるには,高いハードルがあります. 3段階にわたり,効果・安全性・実臨床試験などがあり,ほとんどの新薬候補は,バタバタと落伍して,実用化されるものは,1000に3つどころか,1万分の1以下の確率です.それは,このハードルがEBM(= Evidence Based Medicine)という方法で行うと規定されているからです.

EBM = Evidence Based Medicine

直訳すると,『証拠に基づいた医療』です. 証拠に基づかずに逮捕されたり有罪にされてはたまりませんね. 医療でも同じで,効いたという実例がないのに『この薬,たぶん効くと思うからちょっと試してみない?』とのまされるのはまっぴらごめんです.その薬なり手術なりの効果が,完全に科学的に証明されたものだけを使いましょう,という趣旨です.

PECO

EBMの第一人者で,そのズバリの指摘のために医学界の一部からは非常に煙たがられている,名郷直樹先生 は,『EBMとはまずPECOを整理すること』と述べておられます.といっても 不二家のペコちゃん ではありません.
PECOとはPatient, Exposure, Comparison, Outcomeのことです.つまり;

  • Patient どういう患者を対象にしたのか
  • Exposure どんな治療・投薬を行ったのか
  • Comparison 比較対象はあるのかないのか,ある場合は何か
  • Outcome どんな指標で結果を判定したのか

のことです

PECOを具体例でみてみましょう

ここに糖尿病の新薬の評価結果の報告があったとして

Patient肥満で心疾患履歴のある,糖尿病罹患歴10年以下,かつ投薬はしている(ただし2種類以下)がインスリンを使っていない患者200名を,2グループ(投与群と非投与群)にわけて
Exposure投与群には当該の新薬を半年間投与して
Comparison非投与群にはPlacebo(偽薬)を二重盲検法で比較投与して
OutcomeHbA1cの変化と心疾患発症率を記録した

というのが,PECO です.これで,どういう試験内容なのかが整理できました.

二重盲検法

投与される患者にも,投与する医者にも,それが偽薬か本物の薬なのかを知らせずに行うこと.よって 偽薬は本物と見分けがつかないように,見た目には同じ薬剤形態(錠剤の色・形)に作られています.非投与群の人が,偽物の薬をのまされていると気づいてしまうと,結果に影響を与えたのではないか,と批判されるからです.

上方落語の故 桂米朝のマクラにこういうのがあります.
医者が患者に薬を渡す時,『はい,これ1日食後3回ね』と言って渡すのではなく,医者が座り直してコワい顔をして『君,この薬はな,ドイツで開発されたばかりの,ものすごくよう効く薬や.ただ,飲み方を間違えたらえらいことになる. 一日三回,食べたらすぐ後.これをキッチリ守らなあかん.飲む時刻も決めといた方がよろし. ああ,そこの家族の方も,気いつけて見張ってってや!! これは普通の薬やないんやから』と脅かして渡すとよく効くのだそうです.二重盲検法は,こういったバイアスがかからないようにするためです.

結果

この臨床試験の結果がまとめられ,権威ある学術雑誌に掲載されました.

HbA1cは 投与群は 平均-0.4%低下したが,非投与群では平均-0.1%で,統計上有意であった.しかし,心疾患発症率は 投与群と非投与群とで有意差はなかった. ただし,両群の65歳以上の人だけで比較すると(サブ解析),投与群では2件の発症,非投与群では4件の発症があり,統計上有意ではないものの,差が見られた.

以上は,実際の臨床試験報告書 論文を下敷きにしています.あなたが医師なら,この論文をどう評価するでしょうか?
続きは [EBMとは その2]で

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