【この記事は 第65回日本糖尿病学会 年次学術集会に参加したしらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞き間違い/見間違いによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】
サルコペニア
サルコペニアとは,極端な筋力低下により自立生活すら困難になった状態です.
この記事[別館]で,サルコペニアの判定に握力測定が行われることに触れました.糖尿病患者では サルコペニアのリスクが高いとされています.
最近 アジア人の[★]サルコペニア診断・治療ガイドラインが改訂されました.
[★] 『アジア人の』:欧米人とアジア人では 体格が違いすぎるので,サルコペニアの診断に同じ基準を適用するのは不可能だからです.
このガイドラインの中に,『5回 椅子立ち上がりテストにて12秒以上かかれば サルコペニアである』という基準があります.握力測定が上腕筋の衰えを判定するのに対して,こちらは脚筋力を見ます.
5回 椅子立ち上がりテストとは,椅子に腰かけた状態から,5回立ち上がるのに何秒かかるかを測定するものです.胸の前で腕を組むのは 手の反動を使わずに 脚力だけで立ち上がるためです.
【注意】
◇ 立ちくらみを起こしやすい人は,事前に ウォーミングアップをしておいてください.
◇ 膝・腰に不安のある人は行わないでください.
実際にやってみればわかる通り,普通に生活できる人は10秒もかかりません.
ぞるばがやってみたところ,普段の生活通りでは 6.62秒でした(3回のテストの平均). そして無理なくできる最高の速さでは 4.43秒(同)でした.
歩行速度が推定できる
ところで,上記のサルコペニアの診断ガイドラインには『歩く速度が 1.0m/秒 未満はサルコペニア』という項目もあります. 0.8m/秒という基準もあるようですが,いずれにせよ 歩く速度が遅いということは,サルコペニアだけでなく 認知症症状そのものでもあります .
この『歩行速度の測定』は,病院 特に個人開業医には頭の痛い問題でした.狭い診察室では,患者が3歩も歩けば 壁にぶつかってしまいます.それでは歩行速度は測定できないでしょう.上記のガイドラインでは 6m歩くのにかかる時間を測定することになっています.
これがどうにかならないか,ということで こういう文献もあります.
5回椅子立ち上がりテストにかかった時間は,その人の歩行速度に強く相関しているという報告です. 実際 両者の関係はこの通りで;
5回椅子立ち上がり時間が10秒を越える人は,ガックリと歩行速度が遅くなっていることがわかります.
私の5回椅子立ち上がり時間は,6.62秒[普通]と 4.43秒[最速]でしたが,上図と照らし合わせると,歩行速度は 1.5~1.8m/秒 となり,たしかに よく一致しています.
筋力低下も予測できそう
さらに 今回の第65回 日本糖尿病学会では,なるほどねと思う報告がありました.
P-77-4
糖尿病患者において5回椅子立ち上がり時間は1年後の骨格筋量低下を予測する
京都の綾部市立病院からの報告です.
糖尿病患者 405人(男性:269,女性:136)の 5回椅子立ち上がり時間とその時の骨格筋量を測定して,1年後に再度 骨格筋量を測定したところ;
5回椅子立ち上がり時間と,1年後の筋量低下とは有意に負の相関がみられ,そのCut-Off値は7.95秒であった.
というものです. 投薬状況などは無視していますが,妥当な判断ではないでしょうか.
5回椅子立ち上がり時間が10秒以下だから大丈夫と安心しないで,むしろもう少し高いハードル=『8秒未満』を 目安にすべきでしょう.
運動嫌いの私にしては珍しく『逆トレ』 は今も続けています.
[続く]
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